柴田智郎 本研究科附属地球熱学研究施設准教授、佐野有司 東京大学教授、高畑直人 同助教、鹿児島渉悟 同特任助教、尾上哲治 熊本大学准教授、趙大鵬 東北大学教授らの研究グループは、2016年の熊本地震の前後で深層地下水中のヘリウム同位体比が変化したことを観測し、ヘリウム増加量と地震による地殻の歪みとの間に定量的な関係を見出しました。

 

本研究成果は、2016年11月29日午後7時に英国の科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

 地殻変動観測の一つとして、新たに地下水のヘリウム観測を提案しました。2016年熊本地震では、震源域近くで、地震後すぐに深さ1000mの地下水を採取し、溶存する気体成分を分析しました。その中で、ヘリウムの同位体比(3He/4He比)が地震の前後で変化し、岩石中の放射性起源ヘリウムが地下水に付加され、ヘリウム増加量と地震による地殻の歪みとの間に定量的な関係を見出しました。

 このような観測体制を強化して、ヘリウム同位体の定期的観測を行い、地殻変動や歪み量などの地球物理学的観測結果とあわせて総合的に解釈することで、より精度の高い地殻変動の評価と地震の理解につながる有益な情報を得られることが期待されます。

本研究成果のポイント

  • 2016年の熊本地震の前後で深層地下水中のヘリウム同位体比が変化したことを観測した。
  • 深層地下水中の同位体比の変化から推定したヘリウム増加量と地震による地殻の歪みとの間に定量的な関係を見いだした。
  • 深層地下水のヘリウム同位体比を定期観測することで、地殻の歪み変化を事前にとらえ、地震予知研究に貢献できる可能性がある。
 

概要

日本は地震大国であり、東海地震をはじめとした海溝型巨大地震については地殻変動観測を中心とした地震予知の研究が行われているものの、1995年に起こった兵庫県南部地震のような内陸型の地震については、観測例は少ないです。その理由として、内陸型の地震が海溝型のように比較的短い周期で起こるものではないことと、地震発生のメカニズムが単純ではなく観測方法が確立されていないことなどが挙げられます。

 

これらの観測はGPSや歪み計などを用いた地球物理学的観測が主であり、地下水の溶存成分など地球化学的なものは数が限られています。しかし地震に伴い、地下水の水位や流量が変化したり、ラドンなど溶存化学成分が変化することが報告されており、地震予知に有益な情報を得られる可能性があります。これまでのところ、地下水の化学成分変化と地震の規模などの相関関係は報告されていませんが、それが室内実験などの結果と併せて定量的に説明できるようになれば、地球化学的観測が従来の地球物理学的観測を補強するものになることが期待されます。

 

そこで本研究グループは、2016年熊本地震の震源域近くで、地震後すぐに深さ1000mの地下水を採取し、溶存する気体成分を分析しました。その中で、ヘリウムの同位体比(3He/4He比)が地震の前後で変化し、帯水層を構成する岩石が地震により破壊されることで、岩石中の放射性起源ヘリウムが地下水に付加されたと推定されました。そして地震による地殻の体積歪み変化量が大きいほど、ヘリウムの付加量が多いことを明らかにしました。

図:地下水中のヘリウム同位体比の変化と地震を起こした断層からの距離の関係

(a) 地震前(青・■)と地震後(赤・●)のヘリウム同位体比の変化
(b) 地震前後のヘリウム同位体比の変化量。負の値は地震後に比が下がったことを示す。
(c) 岩石から地下水に付加された放射壊変起源のヘリウムの量。断層に近いほど同位体比の変化が大きく、地下水に付加されたヘリウムが多い。
 

詳細は、以下のページをご覧ください。